症 例 女性 73歳 主婦
初 診 2013年 2月19日
主 訴 肩の痛み、左腕全体的な指先までの痺れ、便秘、不眠、悪夢、胸痛
現病歴 12年前に整形外科にて頚椎脊柱管狭窄症と診断される.首肩の痛みに左上肢の感覚鈍磨、腕指先にかけての痺れ、左胸閟痛もある。2年前に転倒し、右股関節人口骨頭置換術手術をし、今もリハビリをうけている。不眠障害は5,6年続いている。便秘も可なり頑固になって両方ともに薬を継続して服用。胸痛は時々あるが検査では異常なし
既往歴 10年前に交通事故で頬骨肋骨の多箇所骨折する。
診察所見 痛をきたす病気には心臓や血管の病気、肺や胸膜の病気、骨、筋肉の病気、消化器系、心因性などがありどのような痛みなのか、背部か、首肩に放散痛か、局所的か)どの位継続するか(瞬間的か、数分科、数時間からそれ以上か)どのようなときに痛むか(動いたときか、安静時か、体位を変えたときか)その他に症状があるかなど胸痛をきたす病気の痛みの特徴をとらえ診断する。
狭心症 胸中央から左側にかけて絞めつけられる感じや圧迫感があり、数分で消失する。労作時や食事直後、興奮や緊張時に出現。
大動脈剥離 胸部から咽頭、下額、背部、腹部へと移動
肋骨骨折 外傷や過度の運動、激しい咳などで肋骨骨折やひびが入ったりすると深呼吸や咳、押したときに痛む。
急性膵炎 上腹部痛が最も多く、みぞおちから腹部上腹部痛でしばしば背部にも広がる。鈍痛からじっとしていられないほどの激痛までさまざま。
胆嚢疾患 右上腹部の痛み、呼吸時の腹痛、右肩甲骨付近や右側腹部に痛みが続く吐き気や発熱などがある。
心臓神経症 検査では異常なく、精神的負担がかかった時に起こる。どちらかといえばこころの病気。原因としては過労や病気などに対しての不安感、ストレスから心臓の働きを活発にする交感神経を刺激して心拍数が増え、症状を起こしたりする。この症例では、頚部の狭窄のために野脳からの指令を体全体に行き渡らせることができず心臓、神経、血管に悪影響をあたえ、交感神経が刺激され起きていることが考えられる。以上のことから心臓神経症が疑われる。

 

症例

診はまだ研修前で記録のみ2回目の診察が8月4日で6ヶ月以上間が空く体が以前より軽くなった。手の痺れ、胸心痛がこの2週間なかった。自分で脈を計ると65/分。左肩、背中が硬い感じがする

弦、尺弱(肝気抗盛 脾胃の消化に影響する。疎泄機能が低下し木気条達が失われ脈管は引っ張られ張力が増加している。元気なし。
舌質 紫暗(頚椎が狭窄していることで血行阻帯が気と血行が阻害され、不通で痛みが生じる。固定痛、刺痛、夜間に増悪する特徴がある
舌体 胖大、歯根(湿熱停留:心脾熱盛)
舌苔 薄黄 (軽度の熱症:表邪が裏に入り化熱した状態)

 

治療穴

百会 心悸亢進、精神安定、内風を鎮める。意識をはっきりさせ脳を正常に回復する。
太陽 目の充血、張れ、痛み、顔面麻痺。体内の熱を冷まし経絡の流れを良くする。
風池 不眠 体内の熱を冷まし、体表の邪気を取り除く、肝の異常な亢進を落ち着かせる。内風を鎮める。
肩井 頚肩背部痛。風邪を取り除き体内の熱を冷ます。経絡のめぐりを良くする。腫れを抑え痛みを止める。
定喘 肩背部痛
膈ユ 胃痛、寝汗、肋間神経痛。胸の痞えを取り除き上がった気を下降させ血の巡りを改善し、出血を止める。
腎ユ 腎ぼ機能を向上させ陽気を助ける。気を吸入して余分な水分を排泄させる。
委中 腰痛、坐骨神経痛、膝痛。経絡の巡りを良くし熱を下げ解毒する。腫れを抑え痛みを除く。胃腸を整える。
天枢 便秘、中焦の機能向上させ、気の流れを良くする。脾の精を肺に送り胃の温を腸に送る。+足三里(便秘と下痢)
足三里 胃痛、精神不安、脾の機能を向上し痰を取り除く精気を補い増やす。
太渓 不眠、健忘、冷え.腎性を補う。陽の気を温め、寒邪を出す。
太ショウ 高血圧症、精神不安、肝の異常な亢進を落ち着かせ内風を鎮める。鎮静して精神安定。胃の機能を改善し脾の機能を高める。
内関 心痛、心悸、不眠、精神安定。胸の痞えを取り除き気の巡りを改善する。心穏やかにして精神を安定させる。上がった気を下降させ胃の機能を改善する。

第3回

左上肢の感覚鈍磨、心臓検査異常なし。

第4回

両肩は以前より軽く柔らかくなっている。右大腿骨置換術後の周辺が痛む。

脈: 沈弦、尺弱、 尺弱。薄黄燥苔

1月22日

最初は左腕全体に痺れていたが今は姿勢によって指先に痺れがある。首の後屈、回旋はドクターに止められている。睡眠も悪夢は見なくなったが夢は見ている。まだ途中覚醒は残っているし薬を服用しないと寝付けない

脈:沈緊 尺弱 舌淡白、瘀斑 胖大、歯痕、苔厚黄燥

治療穴調整:足三里から血海、太渓から三陰交
血海:血を脾の大海に戻す作用。瘀血に効く。その他、膝痛、リウマチ、子宮内膜炎、更年期障害、蕁麻疹、貧血、脚気など。伏在神経の分枝が通り鍼を刺したとき膝に響くことがある
三陰交:胃腸症状、生殖器、泌尿器、産婦人科症状、下肢症状、心部痛、消化不良、糖尿病、腎炎、下肢症状など。

2月19日

ほぼ、毎週1回のペースを保ち治療中。時折、姿勢などの影響により肩こり、指先の痺れ、胸痛などが現れる。漢方薬を飲んだら1時間ほどで治まった。
漢方処方:主治気滞血瘀(血行を阻害している病理物質{おけつ}を排除し、血行を促進する。気を巡らせて痛みを止める。心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患に適応した冠元顆粒がある。
今後の治療方針:脊柱管狭窄症状は退行性のために完治は望めないため、痛み、痺れ、不定愁訴、他、不快症状の緩和とQOLの向上に努める。

 

参考文献:診察法と治療法、経絡・ツボの教科書