本症例は平成25年の年始に発症し脊柱管狭窄症と診断された。その年の10月から于治療院で治療を開始した。

初めは赤羽駅から約5~6分の距離を3~4回休みながら通院されていたが、平成26年12月には駅から休まずに歩いて来られるようになっていると話された。

「乗るバスが来たのであわてて少し小走りに走ってバスに乗った。こんな事が出来るようになって有難い」

と前向きに治療を受けられている。

 

症 例 患者 81歳 女性 主婦
初 診 平成25年10月7日
主 訴 腰から右下腿外側がピリピリと痺れる。午前中調子がいいが、午後になると痛み出す。胃の調子は以前に比べ良くなっている。
現病歴 平成25年の年始に発症。腰から左大腿外側にかけて痛みがあり、神経ブロックしたが効果が無かった。6月からは右下腿外側にも痺れ・痛みが出た。病院でMRI検査の結果、脊柱がずれていて手術対応と言われたが手術はしたくなかった。
既往歴 胃が悪く、ゲップが出る。7~8年前から難聴。寝つきが悪く睡眠剤服用。便秘薬服用。
治 療 ステンレス和鍼(40㎜ 2番)14本と棒灸

 

東洋医学的弁証

脈 診 沈・緊・左尺弱(顕著)
舌 診 淡白・胖大・歯痕 淡紅・舌尖紅 ややぜん動
舌 苔 苔少
弁 証 陽虚 脾肝腎陰虚 気血津液の循環の詰まり
治 法 補中益気
考 察 1陰陽 2気・血・津液 3臓腑弁証 の順に考察を進めてみる。

①陰陽

患者が高齢の女性である事・体の天地から腰は地、主訴は右等から陰に問題があるかと考えたが、性格は明るく・話好きな点は陽の属性。ざっと全体像からは陰陽分かち難いので、特に補瀉は考えず、平補平瀉で進める。但し、肩凝りで肩井へ雀啄する場合は明らかな瀉。

②気・血・津液 ③臓腑弁症

舌診では気・血・津液(正気)の働きが正常か否か判断する。主に血の

状態を診る。舌苔からは胃気の清濁・外邪の性質を診る。胃気は後天

の精から作られ、全身の気の源ともいえる。

脈診では沈・緊・左尺弱(顕著)。沈―裏証  緊―実寒証、冷えの脈

がみられた。

舌診では淡白・胖大・歯痕 淡紅・舌尖紅 ややぜん動。苔少。

 

上記舌脈所見から判断出来るのは、胖大・歯痕があるのは気虚・陽虚により、気化作用(営気・宗気・衛気・脾気・肺気・腎気など、あるものからあるものへ変化する)が低下し、湿邪が溜まり、水が溜まるので舌が浮腫む。舌が胖大、大きくなったら歯に当たるから歯痕が出来る。また脈が冷えでみられる緊脈であり、舌の色も寒を示す淡白なので気虚が更に進んで温煦作用が働かない陽虚である。舌質が淡白・淡紅なら血虚であり、冷え症状が入ってきている。舌尖紅なので心、ストレスがある。

舌苔少は、舌苔は胃気で形成されるので、胃陰が少なく (津液虚・陰

虚)、長く胃が不調があることを示唆している。つまり胃の気が上手

く動いていない。

寝つきが悪く睡眠剤を服用されている事から肝実・肝鬱・肝気鬱滞・ストレスが予想される。また、腎虚症状(腰のだるさ・膝痛)に陰虚内熱症状が加わると、夜になって頭に熱のある血が上っても陰液不足で冷やすことが出来ず不眠症状を引き起こしていると考える。不眠なので血虚。

左尺弱が顕著なので、腎虚。

※緊―実寒証、冷えの脈であり≒細・弦 濇なら冷えであり血瘀でもある。

筋の痺れから肝と考える。また痺れは、気血津液の循環が滞り経絡が詰まった状態と考える。不通則痛と同様不通則シビレと考えていいと思う。逆に痛則不通と考えると臨床上わかりやすい。

経絡の腰・脊椎は腎の病証と考える。腎はエネルギーの源と考える。

腎が悪くなると首・腰・膝に影響が出る。余談になるが腹筋背筋を鍛

えるのも有効。

以上の所見から脾肝腎陰虚証と診断。肝腎陰虚からの腰下肢痛で気血循環も悪いと診断。気血循環の源となる脾胃=後天の精が弱っているので、修復力(内部治癒力)が落ち、肝の疏泄作用もおちている。

※肝腎同源

問診の時痛みの種類について聞くのを忘れてしまっていたのは反省点。痛みもしくしくした足りない感じの隠痛なら虚痛で、脹痛なら気滞だし、刺痛なら血瘀なので今後は痛みを確認する。

治療方針 寒邪・湿邪により経絡が詰まり痺症を引き起こした肝腎(同源)陰虚からの腰下肢痛なので、腎陰、陰液不足を補い気血の循環を良くする。腰を中心とする治療を行う。
膀 天柱 頭痛・めまい・脱毛・頸肩の凝り・不眠
三 天髎 肩凝りの巣。ドケルバン病にも。肩甲骨上角上方陥凹部。
膀 腎兪 腎の背部兪穴。腰は腎の府。腰痛・生殖器系疾患・泌尿器系疾患・婦人科系疾患・冷え性 ※腰痛は圧痛点があると治りやすいが、ない場合は治りにくい。ぎっくり腰は筋膜性の腰痛は治り易く治ると約束が出来る。志室(二行線)あたり。 椎間関節性の腰痛はL4大腸兪あたりで治すが、時間がかかる。
膀 大腸兪 大腸の背部兪穴。腰痛。泌尿器系疾患。便秘。
胆 環跳 股関節・腰下肢痛・片麻痺・坐骨神経痛に効く
膀 次髎 八髎穴。腰痛・婦人科疾患。 凡そ角度60°で刺入。鍼が上手く入る
と腹部が温かくなる。
膀 委中 四総穴で腰背の病をとる。腰痛。泌尿器系疾患。脛骨神経が通る。
三 翳風 神経内の血流改善・自律神経の安定。難聴。茎乳突孔。ベル麻痺治療。
末梢性顔面神経麻痺。突発性難聴で雀啄。 ※2センチ位まで刺入OK
脾 血海 十二経脈の海である衝脈につながる経穴。血を貯蔵し分配もする。公孫・血海は衝脈の穴であり、十二経脈の海を調整出来る。肝は血を蔵し疏泄を主り、血海(衝脈)を制御し血をコントロールしている。月経量の治療にも使える。月経不調。湿疹。アレルギー体質改善。
胃 梁丘 膝痛
胃 足三里 消化器系疾患・婦人科系疾患・片麻痺・高血圧・腰痛(委中・足三里)
肝 曲泉 陰虚証治療に使う。 津液を補える。湿邪を除きむくみ治療に使える。
腎 太渓 婦人科系疾患・生殖器系疾患・不眠・のぼせ
肝 太衝 頭痛めまい・目の疾患・片麻痺・不眠・高血圧・ストレス